■小説:隆 二


■newタイプ小説
隆 二

wujingと天邪鬼の正門

はじめに

第一話

第二話

第三話

第四話

第五話

第六話

第一話「転職」

大手バス会社にバス運転手見習いとして採用された天野隆二(これ以後、隆二)は、
半年間の乗務実習の後、県北の北見営業所に配属された。
その営業所は主に山間部の路線を管轄し、県の補助金を受けている赤字路線も管轄していた。
山間部の田舎に於いては、バスは公共の乗り物として欠かせないものであったが、
運転手仲間では、この様な路線は嫌われていた。

しかし隆二には初めての路線であり、別に特別な意識はなかった。
北見営業所に配属されて、一週間は乗務訓練も兼ねて前任者との二人乗務についた。

隆二は、赤字路線などの意識は全く無かった。
そんな事より、
初めてのバス路線運行を貰い、希望に満ちていた。

その路線は山間部の赤字路線で、乗り合いバス路線としては中距離に属していた。
県北の見村市から山間部の県境を往復する片道60kmの路線で、
一時間20分で運行する規定になっていた。
一日に三往復の乗務であるが、トラックに乗っていた時と同じ賃金で、
おまけに、荷物の積み下ろしも無く隆二にとっては何の苦痛も無かった
三日間勤務して、一日の休日があり、
休日を境にして、遅出と早出の勤務になっていた。

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第二話「業務」

隆二は、これまでのトラツクに乗っていた時との仕事の差に、驚きの毎日を送っていた。

トラツクに乗っていた時は、
長距離勤務とはいえ、仕事の半分は荷物の積み下ろしで、相当の重労働であったが、、
バスの運転手になってからは、、お客(荷物)の方から車に、乗ってくる。。
安全に心がけ、運行スケジュールを順守していれば良いのだから、肉体的には楽になった。

まぁ、、それが目的で、トラック運転手になったのだから、隆二の願いは一つ叶った。
大手企業の中で高卒で上を目指すには少し無理があると感じ、この道を選んだ隆二であった。

しかし勤務は定期路線の運行だけではなく、
「回送バスの運転」「バスの掃除、点検」「運行日誌の記入」などなど、、
たくさんこなさなければならなかった。
だが、隆二にとっては、、何でもなかった。
トラックの荷物の積み下ろしを炎天下で行う事を思えば何ともなかった。

隆二がバスの運転手になった頃は、既にワンマンカーで、車掌はいなかった。
それゆえ始発を運転する時は、自分一人で始業点検を済ませ、運行主任の確認印を貰い、
車庫から始発場所へ車を移動する前に、、「やるぞ。」と心に誓う瞬間が好きであった。

隆二が、定期バス路線の運行勤務を始める頃には、県北はもぉ冬になろうとしていた。
この地方は、気温は氷点下まで下がるが、雪は余り降らない所である。

見村市発の始発7時の便に乗る乗客は、ほぼ決まっていた。
県境の小さな町「北稜」へ勤める数人の男女と、その町の小学校へ勤務する女性教師が、
毎日始発を利用していた。
その小さな町までは、見村市から約40分で到着する。
そして、そこから引き返す便には、見村市の高校へ通う生徒が10名ほど乗ってくる。

県境の小さな町北稜からも、見村市行きのバスが出ていた。
どちらからのバスに乗務するかは、
運行主任が前もって指示をしてくる仕組みになっていて、
北稜町からの見村市行きの始発は、7時20分で通学の便を図っていた。
見村市からの引き返し便も7時45発で、この便にも通学の生徒が乗っくる。
いわば、県北の通学の足として運行している大赤字の路線であった。

勤務によって、北稜町からの始発勤務を命じられた前日は、
北稜支所の寮へ宿泊する事に決められていた。

隆二は、新人で、しかも独身という事で、
何時しか北稜支所からの始発便の運転が多くなっていた。

隆二が北見営業所に配属され、年が変わり、、
赤字路線縮小整備の認可が、県から下りた。
それを受けて、会社は三月末で、この路線の整備縮小という事を決定し、
北稜支所からの出発便のみにし、一日四便運行と改正した。
その為、隆二は北見営業所から北稜支所勤務への転属辞令を受けることになった。

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第三話「転勤」

北稜支所勤務になって数ヶ月が過ぎ、もぉすぐ夏が来ようとしていた。
隆二は新人と言う事もあって、早出が多く割り当てられていた。
始発も、以前より10分遅くなったものの、
早出の時は、朝5時40分の出勤が辛かった。。
しかし、それに不満が有るわけでは無く真面目に勤務についていた。

この頃になり、隆二に気になる事が二つ起こっていた。
一つは、同じ北稜支所に勤務する事務員の女性だつた。
もぉ一つは、乗務中に出会うダンプカーであった。

事務員の女性は、隆二より一つ二つ年上のようであった。
事務所に運行日誌を持っていくたびに、何か気になり始めていた。

その日隆二は早出勤務で、
3時半過ぎに乗務を終え、運行日誌を事務所へ持っていった。
「どう言う名前かな?、名札を確かめよぉ。」
そぉ思いながら、事務所の運行主任を探しながら事務所に入った。

事務所に入るなり、目に入ってきたのは、
隆二が思いを寄せる事務員と、この支所に一人いる営業の男性との親しげな会話風景だった。
「何だ。。彼氏がいるのか。。」
「そりゃ、そうだな。あなんに可愛い女の人だし、彼氏はいるわな。。」
「俺の様な男には、無理か。。」
隆二は、ひどく落ち込んだ。
隆二にとっては、三回目の片思いが破れた想いだけが残った。

隆二は、どちらかというと硬派の部類に属す男と自分では思っていた。
事実、これまでナンパしようと思った事もないし、した事もなかった。
というより、、ナンパする度胸が無かった。
しかし、トラック乗り時代には、他のトラック野郎との喧嘩には自信を持っていた。
隆二は、そんな男だった。
とは言え、、、運転手仲間と喧嘩をした事はなく、人気も良かった。
男らしい隆二は、トラック乗りには好かれていた。

バスの運転手になってからは、トラック野郎の格好は禁じられていた。
服装、身なり、しぐさ、話し方を厳しく指導されていた。
お客様商売、接客商売でもある事を基礎教育期間に厳しく教えられていた。

隆二が、バス運転手になってから初めて味会う屈辱感が襲った。
「あんな上品な女の人が、あんなニヤケ男と親しげに、、まるで恋人同士や。」
隆二が感じるように、既に二人は婚約していた。

その夜、隆二は居酒屋に飲みに行った。
ちょうど明日が休みだったし、片思いの敗れたヤケクソ飲みに行った。
祖父譲りの酒好きで、酒には強かった。
「何で、俺みたいな良い男が、女には縁がないんだ。」
そんな事を思いながら、酒をあおった。。

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第四話「隆二流」

もぉ秋が来ようとしていた。

隆二は、
事務所の事務員とも、別に気に掛ける事ナシに話が出来るようになり、、
片思いが敗れたショックからは立ち直り、、
バスの運転にも慣れてきて、精神的にも余裕を持って運行業務をこなしていた。
乗客からも苦情は無く、、、
お年寄りには、特に好かれるぐらいであった。

山間部の路線で三箇所ほど幅員が狭い場所が有り、
その手前には対向できる広い場所が確保されていて、
そこで対向車を交わす事がその付近のマナーになっていた。

しかし、たまに、、
マナー知らずが突っ込んで来る事があり、、
バスの運転手としてはその場所の手前での対向車の確認が義務付けられていた。

地元の車は相手がバスの場合は、まず、、自分の方が譲って逃げるか、待機してくれる。
普通のドライバーは、乗客を乗せているバスに対して気を使ってくれていた。

しかし、
向こう見ずの荒くれドライバーもいた。
前方で対向車を見つけると、相手の車に激しく警笛を鳴らし、
広くなっている交わし場で待つように要求する者がいた。

そんなドライバーは、狭い道でもスピードを上げて突っ込んでくる。
そして、相手に下がれとばかりに警笛を鳴らす。
大きな車になると無理なバツクは危険を伴う、
まして、、乗客を乗せているバスは危険なバツクはしない。。
それを、、、
バスに対して、バツクを要求するドライバーがいるのだ。

隆二も二度程、そういう場面を経験した。
隆二は大人しいが、決して大人しい性格ではなかった。

荒くれドライバーに恐れをなして、バツクするような柔な男ではなかった。
運転席の窓を下ろし、「すまんが、下がってくれや。」そぉドスを利かす。
相手が下がりそうなら、少し微笑み。。
そぉでないなら、、相手の眼をまっすぐに見つめる。。

隆二が、
睨みを利かし下がらなかった奴は、
トラック時代を含めても此れまで誰もいなかった。

正確に言えばトラック時代に一人いた、、、
工事中の片側通行の道を走っていた時、無理やり進入して来て、
隆二に下がれと、けたたましくクラックションを鳴らし続け、
隆二が応じないと、
そいつは、
隆二に「運転席から下りて来い。」と威勢がよかった、が、、、
そこまでだった。

隆二に腹へ蹴りを入れられ、
更に、強烈なボディブローを入れられ戦意を失った。
隆二は、戦意を失ったその男を運転席に戻すと、
「はよぉ、下がれ。。」そぉ言って、、
無理やり下がらせた事があった。

もしも、、警察沙汰になった時の為に、
顔は殴らない無い凄さを隆二は持っていた。
バスの運転手に転向してからは、そんな武勇伝は無いが、、、
武勇伝の出来る度胸の有る性格だった。。

荒くれのドライバーも、
隆二の面構えを見れば、それだけで納得して下がってくれた。
しかし隆二は、
自分から突っこむ様なバス運転手ではなかった。

それ故、
お年寄りからは、好かれ、その安全運転ぶりに人気を貰っていた。
そしてある時などは、「あんちゃん。嫁は、おるんけぇ。。」と、
乗客の婆さんに、見合い写真を貰うほどだった。

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第五話「休日」

北稜支所に勤務するようになって、
2年目の春、、桜の便りが聞かれる頃であった。

その日、運よく日曜日が非番に当たった。
更に前日は早上がりだったもので睡眠も十分に取り、
朝6時に起床した。
寝る事も趣味の一つとして数える程、、良く寝る男であったが、、
どうした訳か休みの日、、しかも日曜日には早く起きる癖があった。
ガキの頃からで、月曜日には途端に朝起きられない癖を持っていた事を記憶していた。

隆二は北稜支所の寮へ越してきてから、今だ町を歩いた事が無かった。
県北の田舎の過疎の町ゆえ、賑やかな場所など無かったが、
田舎の町並みの利点か、、車の駐車には不便が無かったので、
町への用事はすべて車で行っていた。

その日は、どうした訳か散歩しながら町へ出たくなったのだ。。
もちろん賑やかな場所など有るはずも無く、
うす寂れた雑貨屋が四〜五軒と衣料品店が二軒、文具屋が一軒、、
食料品店が二軒それと小さな食堂が二軒程有るだけで、ほかには、、、
小さな郵便局が一つあった。

隆二の目的は買い物ではなかった。
歩きながら、町というか、、村というか(ほぼ村にちかい)、田舎の探索がしたかった。
寮から町までは、車で2kmほど離れているだけで、裏道を歩けばもっと近い。
町の裏側を流れている小川のあぜ道を歩きたかったのだ、、、、

隆二は「水」のせせらぎが好きで、
「水」の綺麗な小川などにいる小魚を水面の上から見ていると、時間の経つのを忘れるほどだった。

その日は暖かい春日和で、カッターシャツ一枚を着て外へ出た。

隆二は、鍛えた上半身にはカッターシャツが良く似合う事を知っていて、薄着の季節が好きであった。
隆起した大胸筋には自身を持っていて、自己満足に足りていた。

思った通り、、田舎の小川は水が綺麗で、フナやメダカ等が川の淵付近にたむろし、穏やかであった。
隆二は魚釣りは好きではなかったが、
小魚を見るのはとても好きで、見ていると心が和んだ。

もぉすぐ町の裏手へさしかかろうとした時、、一人の女性と出くわした。
麦わら帽子をかぶり、小川のスケッチでもしてる雰囲気だった。
隆二は、小さく会釈して側を通り過ぎようとした。
すると、、女性が声をかけてきた。
「あら、運転手さん。お久しぶりです。」

隆二は、ビツクリした。
こんな田舎に女性の知り合いなどいないが、もしかしたらバスの乗客かも知れない。
隆二も丁重に挨拶を返した。
「こんにちは。」
そぉ言って、女性の顔を見た時、、、仰天した。。
以前、北見営業所勤務だった頃、
見村市発の始発を利用してくれていた乗客で北稜小学校へ勤務している教師だった。
以前の乗客にビックリしたのではない。

バスに乗車し勤務中は客の顔をマジマジと見る事は、ほとんど無い。
それが、ごく近い距離で真正面から見て、、仰天したのだ。。

年は隆二と同じぐらいだろう。。しかし、、、、

美人だ。

以前、乗客として会っていた頃、、こんなに綺麗と意識した事はなかった。
それが、なんと言うか、、美人だった。
隆二の理想とする美人だ。。
次の言葉が素直に出なかった、、、声がうわずった。。
「あっっ、先生。」
女性の方が、続けて喋ってきた。
「バスのダイヤが変わってから、私この町に下宿しています。」
「又、どこかで会うかも分かりませんね。じゃ失礼します。」
隆二は、ドギマギした。
「ハ、ハ、はい。又、乗ってください。」
そぉ言うのが精一杯だった。

小学校の教師をしている事は知っていたが、この町に住んでいて、、あんなに綺麗な人だったとは、、、
隆二は、全身が毛羽立った。
「下宿していると言っていたから、、独身かな?」
隆二は、この町が急に好きになった。
何か、人生の希望が見えたみたいで、、、力がみなぎって来るようだった。

「もぉ一度会いたい。」そぉ考えながら町へ入っていった。

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第六話「事件」

隆二は酒が大好きで、一升酒も平気な男だったが、
仕事柄、、平日はビールを一本飲むだけで、酔っぱらう程は飲まなかった。

ところがである、、梅雨が明けようかという時期の土曜日の深夜、、、
北見営業所の社員が飲酒運転で検挙された。
バスの運転手ではなく、事務職員が泥酔運転で捕まった。
終業後、となり町のビヤガーデンに事務職員4人で飲みに行っての帰り道に検問に会ったのだ。
泥酔運転で検問の停止指示にすぐに止まれず、、10mも行き過ぎて止まったそうだ。

翌日、会社は大騒ぎになった。

バス運転手はプロ意識を持ち「飲酒運転」はご法度とされていた。

もちろん、バス運転手が検挙されたわけではないが、、
会社は、業務命令という形でバス運転手の退勤後の飲酒についての注意書きを廻してきた。
その為、
北稜支所までもが、、バス運転手の退勤後の飲酒についての指導が行われた。

過ちを犯したのは事務所の人間、なのに、、、
「バス会社」という事で、バス運転手にも厳しい通達が出されたのだ。

・・・何か、、違う。
隆二は、納得いかなかった。過ちを犯したのは、バス運転手じゃぁない。
なのに、、「万が一」という名目で、「乗客を安全に」という名目で、、、、
バス運転手の規律を改めようとしているとしか、、思えなかった。

何故なら、、
飲酒運転した事務員は、1/10減給一ヶ月と一週間の出勤停止処分を受けたそうだが、、、、、
同乗していた3人には口頭注意のみで、他の処分は下されなかった。

バス運転手には運行管理者を通し厳しい通達が出た、、、「そこまでは納得しよう。」
「事務所の人間は誰が管理するのか?」
「そこの所長が管理するのが当たり前だろう。。」
「それも、検挙されたのは、事務所の人間だぜ。」

隆二の正義感が目を覚ました。

隆二は、弱い者いじめをする先生が大嫌いであった。
中学ぐらいになると、「ドン不良」と呼ばれる生徒が、学年に必ず何人かいる。
弱いおとなしい生徒に、イチャモンをつけたり、銭をたかったり、、意味もなく殴ったりする連中だ。

だが、、、、
そんな悪い連中を擁護する先生も、又、、、必ずいる。
「個性を大切にしてやらないと、根はいい子なんですよ。」
そんなゴタクを並べる先生が、、必ずいる。

そしてそんな先生は、、
(普通の生徒に対しては、)
成績も中ぐらいで、おとなしくもなく、かと言って騒ぐでも無く、他の生徒に迷惑をかけたりしない「普通の生徒」にたいしては、、、 物凄く叱る。
普通の生徒が少しでも失敗しようものなら、大声で怒鳴りあげる先生だ。

要するに、
叱れば歯向かってくる連中には理解者のごとく、叱ってもおとなしい連中には威厳者のごとく。。
そんな糞みたいな先公は、大嫌いであった。

隆二は小さい時から、年上の連中ともよく喧嘩した。
勝てなかったが、、、、無理を言ってくる阿呆とは恐れず喧嘩した。

一般社会にも居るんだ、もっともらしく横車を押す奴が。。。
本来は、所長の管理不行き届きが問われるべきなのに、
その所長に取り入ろうとする愚かな副所長達に腹が立った。
分かっているのに知らんふりをし、
体裁をつくろう為に外部にアピールしやすいところを絞るやり方だ。

真に乗客の安全を考えての改善なら、、
そこに直接携わる「バス運転手の運行スケジュールに余裕を作る事」が先決じゃぁないのか。。

それが分かっている運転手達も、「乗客の安全を・・・・」とか言われると〜黙り込む者がほとんどだった。

だが、、隆二は違った。

相手が誰だろうと、「納得出来ない締め付け」を押し付けられたら立ち向かう。。そぉ言う男だ。
事務所の管理部門の連中は、隆二はおとなしい男と見ていたらしく、、
その隆二が筋を通した質問と異議を唱えてくる事に驚き、慌てふためいた。

「バス会社としての信用に傷をつけ、お客さまの信頼を裏切る行為をした張本人達の上司の教育方法に不備があったのではないか?」
「その事を会社として明確にした上で、規律強化に取り組むのなら理解する。」
「しかし、そうでないなら、、我々運転手の規律が乱れていると言う証拠をハッキリと示せ。」
「我々運転手は、翌日の運行の事を考え日々生活している。」
隆二は、大きい声で落ち着いてそして、、堂々と副所長達と渡り合った。

この事件がきっかけで、 年の若い隆二であったが、運転手仲間から困り事との相談相手にされるようになり、
組合活動に取り組むようになっていった。


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